配電盤よ、安らかに

85%フィクションと15%の今はもう失われたもの

君の願いはちゃんと叶うよ 楽しみにしておくといい

僕もいい年になったので今考えることを少し書いてみる。

最近すごく考えていることは、僕は昔よりも「実践」に価値を置くようになったなぁということだ。ここでいう実践って言うのは、「決断」という意味に近い。もっというと、「プライベート的な決断」だ。去年僕は結婚をして、こうして暮らしているわけだけど、これってすごい決断だと思う。自分がこんな決断をすることが可能だなんて全然思っていなかったんだ。
僕は、何かを迷いに迷って決断したわけじゃ無い。強い流れと理性じゃ無い感情による確信があった。
でも、僕は確実に20代は20代なりに積み重ねてきて、自然と決断できるような自分に少しずつ変化しているんだという感覚を肌で感じる。
これは、間違いなく、大人になっているって言うことなんだと思う。僕は、あの頃の僕らが笑って軽蔑した恥ずかしい大人になっているんだろうか。でも、半径5メートルの決断こそが人生なんだって思いはじめている。


考えてみれば、22をすぎてからというもの、決断の連続だ。
就職活動から始まって、自分自身の稼いだお金で暮らすって言うこと、誰か一人をきちんと愛すると言うこと、結婚するって言うこと、子供を産むかって言うこと、そしてその間に自己同一性をどれだけ保てるのかって言うこと。いかに、変わらないままで変わるのかみたいなギリギリの選択を迫られている感じがヒリヒリする。
それに僕が成功しているのかはわからないけれども。(少なくとも、大事だった友人を諦めた時に僕は何かを失ったようにも思っている)

ものをよく知っている人がずっと好きだったんだけど、ようやく僕は、結局誰か一人を愛し抜くことも、何年もつきあった彼女と結婚を決めることもできないけど理論だけは立派な男の子はちょっとつまんないなと思い始めている。彼が幾ら男女雇用機会の均等や出生前診断の可否や尊厳死の可否や何かについて語ったって、それはちょっと上滑りしすぎる。それは語らなくて良いことじゃない。知って思考して語り続けることはもちろん基本だ。それでも、僕はそれを少し前まではただの議論のテーマとして扱えたけど、今や僕にとっては実践テーマになってしまっている。僕は、それの一つ一つについて現実的に決断をしなくてはいけなくなっていて、それはすごくリスキーで、冒険だ。幾ら理論を振りかざしたって、「どう選んだらどうなるのか」が解らない世界に突入している。それを、切り開いて歩く。それは、(あの16の頃の真っ暗な森とは全く風景が異なるにしても)深い森を歩くような体験だ。どうすれば幸せになるかなんてわからないけど、僕は幸せの実践に着手してる。このゲームは、成功するのか全く先が見えていない。

30過ぎにもなって学生時代とおなじままに実家に住んでるあの子も、専業主婦に収まったあの子も、結局一緒に働く女性というロールを果たすことなんか全然叶わなかったあの子も、なんだか遠くに行ったみたいに感じる。酷く孤独感がある。
同時に、子供を産んだ古い友人のこととか、海外に一人で飛び出すことに決めてしっかりやっている友人であるとか、躊躇を見せずに (ある意味僕と同じように)強い流れと感情でパートナーと生きていく決断をした人とか、僕と生きていく決断をした彼がいることとか、そういうことの方が心強く思える。

そう、もちろん、僕たちは、あの16の頃の僕たちを手放す気は無い。本当はずっとこのままでいたいって気持ちもある。けど、それでも、風が吹いたら、鐘が鳴ったら、西で稲妻が光ったら、飛び降りなければいけないのだ。走り出さなければいけないのだ。あの頃の自分の手を離さないで、ギュッと手を握ったまま、その子を連れて目を瞑って暗いところへ飛び込むんだ。怖い、怖い、本当にいつだって泣きそうな気持ちになる。「きっと大丈夫だよ」って、震える昔の僕に囁きながら、泣き叫びたいのは僕の方だ。大丈夫かどうかなんてわからない。でも、風が強く吹いている。

同じように決断している人たちの背中が見えるけど、それは同時に道を分かって独立していくことのようにも見える。どうかどうか、僕たちのテレパシーがこれからもずっと届きますように。先が見えない恐怖心や猜疑心に分かたれませんように。一つのことが同じで無くなったから、全てが食い違うように思いませんように。僕は言葉を発し続けなくっちゃいけないんだ。それで何かが届くかはわからないにしても、それしか方法が考えつかない。

ああ、なんて、遠くまで来ちゃったんだろう。
世界が怖くて泣いてしまいそうだ。
昔と何も変わらないな。
きっと、あの頃見てた、大人もそう思っていたのかなぁ。
恋をして、人を傷つけて、夜を怖がって、煙草を吸って、いろんなことを決断して、こんなところまで来てしまった。
まだ先は長いみたい。でも、本当は、そんなには長くないかも知れない。

誕生日おめでとう。
あの小さな僕が泣くから、抱きしめられるくらいに大人になる。
失い続けるのがわかっていて、怖くて怖くて、息をするのが精一杯だ。
でも、ちゃんと前を向いて歩いたら、期待以上のものに出会う。
僕はその覚悟ができてるはずだ、きっと。